母親

「ただいま」

「おかえりなさい」

「今日、お菓子もらった」

「まあ」

「部活の監督から」

「そう」

「ここに置いておけばいい?俺、自分の部屋行くわ」

「たかひろくん、ちょっといい?」

「何?」

「お茶飲んで、そのお菓子頂かない?」

「いいけど」

「今日、部活どうだった?」

「別に。普通だけど」

「そう…お父さんとは学生時代に知り合ったのは、前にも言ったかしら」

「…」

「お父さん、部活で失敗しててね。そういえば、たかひろくんと同じ監督さんだったわね。それでね、自信なくして」

「ふーん」

「そうしたらね、監督さんが今日はもう試合から上がりなさいって言われたの。不甲斐ないのと、外されたという事実が心に残って…とお父さん言ってたわ」

「それで、父さんどうしたの」

「それでね、監督さんがお父さんに後からコソッとお菓子をくれて。目の前で泣いたって。その悔しさは誰しも通る道さねって、監督さんは仰っていたらしいの」

「………俺、失敗したんだ。皆の足を引っ張って。悔しくて…泣きたかったけど、泣いたら駄目だと思って…。でも、不甲斐なくて…」

「若い頃に通る道さね。そういう気持ちと自信がユラユラ振り子のように揺れて、その内に自分の核が出来るんじゃないかな。お父さんもそういうこと経験してるから、今強いのよ」

「母さん、俺、父さん越えられるかな?」

「まあ…!ふふふ。たかひろくん、お茶冷めちゃうわよ。ちゃんと越えられるといいわね」