The Corrs

中学生の時だったと思う。

端正な顔立ちで如才なく人と付き合う男の子がいた。

当然モテる訳で取り巻きの女の子がちらほら。

私は彼に憧れていたが、近付ける訳もなく、彼が話す度、聞き耳を立てる。

「ねえ、好きな音楽とかある?」

彼は今流行りの曲を言う。

「あれ、いいよね!」と取り巻きの女の子。

とある帰り道、通り雨が降った。

慌ててバス停のある小屋に入ると、後から男の子が入って来た。

彼だ!

やばい!と思い目線を逸らす。

タオルで顔を拭いているのが気配で分かる。

彼が、「すごい雨だね」と言った。

突然のことに驚き私は素っ頓狂な声で、「あ、はい!」と言う。

しばし沈黙があり、耐えられなくなり、私は「す、好きな音楽なんですか?」と訊ねた。

流行りの曲と言ってたじゃないか、私のバカ。

彼は一瞬戸惑っていたが、持ち直し、笑顔で「The Corrs」と言った。

続けて、「ラジオからRunawayが流れててそこから好きになって今はPaddy McCarthyが好きになったかな。ただこの曲、検索するとサッカー選手のインタビューになるんだよね。だから、ザ・コアーズってつけないとだめなんだけどね」

私は笑った。

会話はそれだけで雨があがった。

そして、お互い別れて家路についた。

その後、私は会話の糸口になるかもしれないと、ザ・コアーズを聴いた。

好きな曲も見つかった。

Little WingとBaby Be Braveだ。

彼にいつか話そうと思った。

しかしながら、会話することなく卒業してしまった。

今思えば、地味な私に好きな音楽を真面目に答えてくれた彼の人柄に好感を持てるし、単純に嬉しかった。

取り巻きの女の子たちには決して言わなかった宝物を共有したみたいでワクワクした。

彼が今、どうしているかは分からないけど、きっと流行りの曲よりも、ザ・コアーズの曲のように爽やかに街を歩いているはず。

彼の端正な顔立ちならきっと映える。